慢性腎臓病

慢性腎臓病とは

慢性腎臓病(CKD)は、数か月から数十年に渡って進行する慢性的な腎臓の病気です。
慢性腎臓病の原因は多岐にわたりますが、生活習慣病(糖尿病や高血圧など)や慢性腎炎が代表的であり、メタボリックシンドロームとも関連が深く、誰もが罹患する可能性があります。
日本では、慢性腎臓病の患者様は約1,330万人(20歳以上の成人の8人に1人)おり、新たな国民病とも言われています。
腎臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、機能が著しく低下するまでほとんど自覚症状がありません。
病気が進行すると、夜間の頻尿、貧血、むくみ(浮腫)、息切れなどの症状が現れてきますが、これらの症状が自覚される時点では、既に慢性腎臓病がかなり進行していることが多いです。
早期に診断し、治療に取り組むことが重要で、食事療法や血圧管理、薬物療法などを通じて腎機能の低下を予防することが大切です。
末期腎不全は、腎臓の機能の大部分が喪失し、透析療法や腎移植が必要になります。

慢性腎臓病の症状

慢性腎臓病の症状は、ステージG2までは血液検査や尿検査で異常が見つかることもありますが、自覚症状はほとんどありません(ただし、尿蛋白が多いネフローゼ症候群と呼ばれる状態ではむくみが生じることがあります)。
ステージG3(GFR 60ml/分/㎡未満)以降では、血液中の水分やカリウム、カルシウムなどの電解質バランスが乱れ、むくみや筋肉の症状(手足がつるなど)が現れることがあります。この段階では、尿の濃縮能力が低下するため、夜間に頻尿(夜間尿)になることもあります。
腎臓はエリスロポエチンという造血ホルモンを産生するため、このホルモンが低下すると貧血(腎性貧血)を起こします。
ステージG4以降では、むくみが強くなり、血液中に毒素(尿毒素)が蓄積され、尿毒症の症状として頭痛、吐き気、疲労感などが現れることがあります。電解質や水分のバランスが調整できなくなると、不整脈、肺水腫、心不全などの命に関わる状態が発生することもあります。
このような症状が進行し、薬物療法で対処が困難になった場合、血液透析などの腎代替療法が必要になります。

慢性腎臓病の原因

腎臓は体の一部であり、年齢が上がるとともに腎機能は低下します。
ただし、加齢以外の要因により慢性腎臓病が進行することもあります。慢性腎臓病の原因としては様々な腎臓疾患が存在します。

糖尿病性腎症

糖尿病が原因で腎機能が低下する病気です。

慢性糸球体腎炎

糸球体の炎症によってタンパク尿や血尿が長期間続く病気です。

腎硬化症

高血圧が主な原因で腎臓が硬化し、機能が低下する病気です。

多発性嚢胞腎

腎臓に多くの嚢胞が形成される疾患で、腎機能の低下を引き起こします。

上記以外にも、結石などの泌尿器科疾患や膠原病などの自己免疫性疾患、薬物の副作用などが慢性腎臓病の原因となることがあります。これらの疾患における腎機能障害の進行も、老廃物のろ過装置である糸球体の障害、水分や電解質の調整を行う尿細管の障害が主な原因となります。

慢性腎臓病の検査・診断

慢性腎臓病は、尿所見異常があるのみで腎臓の働きが全く低下していない状態から腎代替療法(透析や腎移植)が必要な末期腎不全まで様々です。 腎機能を表す血液検査結果として、尿素窒素(BUN)やクレアチニン(Cr)の値が参考になります。
しかし、慢性腎臓病のステージの分類には、推定糸球体濾過値(eGFR)が用いられます。
病気の進行度によってステージ分類され、慢性腎臓病はG1、G2、G3a、G3b、G4、G5の6つのステージに分類されます。
さらに、原因疾患や尿中の蛋白質やアルブミンの量にもとづいて、A1、A2、A3の3つのステージに分けられます。
原因疾患の特定は、血液検査や尿検査だけでは困難な場合もあります。
そのため、確定診断や重症度評価のためには、腎生検が行われることがあります。
腎生検は腎臓の組織を採取し、顕微鏡で詳細な組織評価を行う検査であり、病気の進行度を把握し、治療法を選択する上で重要な手段です。ただし、腎生検は侵襲的な検査であるため、適応を慎重に判断する必要があります。
また、腎臓の大きさや形態を評価するために、CT検査や腹部超音波検査が行われることもあります。
これらの検査は、腎臓の状態をより詳細に把握するために行われます。

原疾患 蛋白尿成分 A1 A2 A3
糖尿病 尿アルブミン定量
(mg/日)
尿アルブミン/Cr比
(mg/gCr)
正常 微量アルブミン尿 顕性アルブミン尿
30未満 30~299 300以上
高血圧
腎炎
多発性嚢胞腎
移植腎
不明
その他
尿蛋白定量
(g/日)
尿蛋白/Cr比
(g/gCr)
正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿
0.15未満 0.15~0.49 0.50以上
GFR区分
(mL/分/1.73㎡)
G1 正常または高値 ≧90      
G2 正常または軽度低下 60~89      
G3a 軽度-中程度低下 45~59      
G3b 中程度低下-高度低下 30~44      
G4 高度低下 15~29      
G5 末期腎不全(ESKD) <15      

慢性腎臓病の治療

慢性腎臓病は、単に薬を服用するだけで治るものではなく、一度低下した腎臓の機能を元の状態に戻すことは不可能です。
そのため、慢性腎臓病の管理には以下のような対策が必要です。
これらの対策は、腎機能の低下や腎不全の合併症の進行を遅らせ、透析療法への移行を遅らせることを目的としています。

食事制限

減塩食、タンパク質制限、カリウムやリンの制限などの食事制限を行います。

生活習慣改善

糖尿病が原因で腎機能が低下する病気です。

糖尿病の治療

糖尿病が原因である場合は、血糖値の管理や適切な治療を行います。

高血圧の治療

高血圧が原因である場合は、血圧の管理や適切な治療を行います。

高尿酸血症の治療

高尿酸血症が原因である場合は、適切な治療を行います。

タンパク尿の減少

タンパク尿を減らすための処置や治療を行います。

貧血の治療

腎性貧血の治療を行います。

骨やミネラル代謝異常の治療

骨粗鬆症やミネラル代謝異常に対する治療を行います。

尿毒症症状への対症療法

頭痛や吐き気などの尿毒症症状に対する対症療法を行います。

CKDの原因疾患が特定されている場合は、その原因疾患に対する適切な治療を行います。
また、腎機能がG5まで進行し、日常生活が困難になった患者様には、透析療法や腎移植などの腎代替療法が適用されます。透析療法には、血液透析と腹膜透析の2つの方法があります。
末期腎不全の唯一の根治療法である腎移植も検討されます。腎移植では、他の人から提供された健康な腎臓を移植し、患者様の腎臓機能を回復させます。
しかし、腎移植はドナーのマッチングや免疫抑制薬の服用などの課題があり、日本での施行例は多くないのが現状です。

慢性腎臓病の予防・
治療後の注意

慢性腎臓病の予防・治療後の注意加齢と密接な関係があるため、慢性腎臓病(CKD)の進行を完全に止めることはできません。
しかし、腎機能の低下の速度は、腎不全の原因やその管理の質によって大きく異なることがあります。慢性腎臓病は自覚症状がないまま進行するため、尿検査でタンパク尿や血尿が検出された場合は、症状がなくても放置せずに医師に相談することが重要です。
糖尿病や高血圧症も慢性腎臓病のリスク要因となるため、生活習慣の改善も予防に役立ちます。

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