糖尿病とは
糖尿病は、インスリンが十分に働かないために、血液中を流れるブドウ糖という糖(血糖)が増えてしまう病気です。インスリンは膵臓から出るホルモンであり、血糖を一定の範囲におさめる働きを担っています。
血糖の濃度(血糖値)が何年間も高いままで放置されると、血管が傷つき、将来的に心臓病や、失明、腎不全、足の切断といった、より重い病気(糖尿病の慢性合併症)につながります。また、著しく高い血糖は、それだけで昏睡(こんすい)などをおこすことがあります(糖尿病の急性合併症)。
糖尿病は初期の段階では自覚症状がほとんどなく、進行してしまうと喉の渇き、疲労感、頻尿などの症状が現れることがあります。また、傷が治りにくくなったり、感染症にかかりやすくなったりすることもあります。高血糖が続くと、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中のリスクが増加します。さらに、毛細血管の狭窄や閉塞、破裂などが起こり、重篤な合併症も引き起こす可能性があります。糖尿病網膜症(目の合併症)、心不全、糖尿病神経障害、糖尿病腎症などがその例です。
糖尿病は完治することはありませんが、適切な治療によってコントロールすることは可能です。これにより、動脈硬化や深刻な合併症の発症や進行を防ぐことができます。そのため、早期に糖尿病を発見し、血糖値を管理することが重要です。定期的な健康診断で血糖値やHbA1cの異常が見つかった場合は、早めに医師の診断を受け、適切な治療を行ってください。また、自覚症状がない場合でも、35歳以上では定期的な検査を受けることを推奨しております。
糖尿病の種類
糖尿病は、1型糖尿病、2型糖尿病、その他に分けられ、2型糖尿病が9割を占めています。
1型糖尿病
先天的な要因やウイルス感染などにより、膵臓のインスリン分泌を担う細胞が破壊されることにより、インスリンの分泌が不足することで発症します。
2型糖尿病
運動不足や糖質の過剰摂取などの生活習慣の乱れにより、インスリンの分泌が困難な体質になったり、インスリンの働きが低下する状態が組み合わさり、疾患が発症・進行するとされています。
その他
遺伝子の異常、内分泌疾患、膵臓の疾患、ウイルス感染など、様々な疾患や薬剤・化学物質の影響によって、二次性糖尿病が発症することがあります。また、妊娠中の糖代謝異常による妊娠糖尿病は出産後に改善することがありますが、将来的に糖尿病の発症リスクが高まるとされています。
糖尿病の症状
2型糖尿病では、初期段階で自覚症状がほとんどなく、予防的な対策が重要です。しかし、以下の症状が現れることもありますので注意が必要です。
- 皮膚が乾燥する(かゆい)
- 疲れる(疲労感)
- 手足の感覚が鈍る
- 頻尿(多尿)
- 感染症にかかりやすくなる
- 勃起不全(インポテンツ,ED)
- 創傷治癒遅延(切り傷など外傷が治りづらくなる)
- 喉が渇く
など
糖尿病の原因
糖尿病の患者様の9割を占める2型糖尿病は、環境的要因と遺伝的要因によって発症します。
環境的要因
糖尿病の発症や進行には、食事、運動、飲酒、加齢、ストレスなどの日常の生活習慣が大きく関わっています。
遺伝的要因
日本人は、欧米人と比較するとインスリン分泌が少ない傾向があります。特に、食後の血糖値を下げるためのインスリンの分泌が少なく、食後の血糖値が上昇しやすいとされています。そのため、糖尿病の発症リスクが高まる可能性があります。
また、糖尿病の血縁者がいる場合も注意が必要です。ご家族に糖尿病の方がいると、自身の糖尿病の発症リスクが高まる傾向があります。
糖尿病の合併症
糖尿病は生活習慣病であり、動脈硬化の進行や血管の狭窄・閉塞のリスクを高めます。心筋梗塞や脳卒中などの脳血管疾患だけでなく、全身の血管障害である閉塞性動脈硬化症の発症リスクも増加します。特に内臓脂肪型肥満があり、糖尿病や脂質異常症、高血圧の2つ以上の疾患を抱えるメタボリックシンドロームの場合、血糖や脂質、血圧の検査数値がそれほど高くなくても、動脈硬化が進行しやすい傾向があります。生活習慣病は自覚症状が少なく、突然血管の重大な症状を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
さらに、糖尿病では毛細血管にも大きな損傷を与え、様々な合併症を引き起こします。糖尿病網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症といった三大合併症があり、失明や足の壊死、透析が必要となる腎機能障害などが発生する可能性があります。
しかし、生活習慣の改善を継続することによって、これらの合併症のリスクを低減することができます。
心筋梗塞
心臓は絶え間なく拍動し、心筋を動かすために必要な酸素や栄養素は冠動脈を通じて供給されます。心筋梗塞は冠動脈の閉塞により血流が途絶え、心筋細胞が壊死する疾患です。一般的に、心筋梗塞は激しい胸痛を引き起こすことが多いです。しかし、糖尿病が進行し、神経障害がある場合、心筋梗塞が起きても痛みを感じない無痛性心筋梗塞と呼ばれる場合があります。そのため、心筋梗塞が進行し、心不全に至るまで症状を自覚することがなく、重症な状態で発見される場合もあります。糖尿病が重度である場合は、定期的な心臓のチェックが重要です。
脳梗塞
脳の血管が閉塞している状態では、閉塞箇所から遠くの部位に酸素や血流が十分に供給されず、その結果、組織が壊死する可能性があります。このため、閉塞箇所によって様々な神経症状が生じることがあります。重篤な症状としては、半身麻痺や言語障害などがあります。これらは機能障害として残る可能性があります。
さらに、適切な治療を受けない場合、再び脳梗塞が起こりやすくなり、重篤な症状が現れるリスクも高まります。このため、2次予防の継続的な治療やケアが非常に重要です。
閉塞性動脈硬化症
全身の動脈に狭窄や閉塞が生じ、血液循環に障害が生じます。最初の症状として手足の冷えや足の痛み、しびれなどが現れます。進行すると間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれる、休まないと歩行できない状態になることもあります。また、傷の治りが遅い状態や足趾の潰瘍が繰り返し起こるなどの皮膚症状もみられます。重篤な場合、壊死が進行し下肢切断が必要になることもあります。このため、定期的な全身の動脈硬化の観察が非常に重要です。
糖尿病網膜症
高血糖の状態が続くと、網膜に適切な酸素供給ができず、糖尿病網膜症を引き起こします。日本人の失明の主な原因の一つであり、早期治療が非常に重要です。初期段階では自覚症状がほとんどないことがありますが、初期でも網膜出血や浮腫が見つかることがあります。さらに進行すると急激な視力低下や緑内障、網膜剥離などの合併症が発生する可能性もあります。
糖尿病と診断された場合は、生活習慣病を含む総合的な治療と並行して、定期的に眼科を受診し検査を受けることが必要です。失明を防ぐためにも、糖尿病による網膜症の早期発見と適切な管理が不可欠です。
糖尿病性神経障害
糖尿病による血糖コントロールの悪化に伴い、末梢神経が最初に影響を受けることがあります。これにより、手足のしびれや冷え、ほてり、痛みを感じにくくなるなどの感覚の鈍化が生じることがあります。これらは糖尿病性神経障害の一般的な症状であり、知覚鈍麻(痛みや熱を感じない)が進行すると、潰瘍が繰り返し生じ、最終的には壊死や切断に至る可能性があります。そのため、爪や皮膚の適切なケアが非常に重要です。
さらに、糖尿病性神経障害では、自律神経にも影響を及ぼすことがあります。立ちくらみ、胃腸の問題、発汗の異常、排尿障害などの症状が同時に現れることがあります。
したがって、糖尿病の患者様は定期的な足のケアを行うとともに、神経障害の兆候にも注意を払う必要があります。
糖尿病性腎症
腎臓の組織が損傷を受け、正常に尿を生成できなくなる状態です。この状態が進行すると、体内の余分な毒素や老廃物を血液から排除するために人工透析が必要になります。透析は定期的に行う必要があり、通常は週に3回、それぞれ3〜4時間ほど行われます。このため、日常生活に大きな支障が生じます。
また、人工透析は様々な合併症のリスクを増加させることもあります。人工透析を受ける原因として最も多いのは、糖尿病腎症であり、糖尿病の治療を早い段階から適切に行うことが重要です。糖尿病のガイドラインにもとづいた治療を受けることで、人工透析を必要とするリスクを減らすことができます。
糖尿病の治療
糖尿病は完治する確実な治療法はありませんが、血糖値のコントロールは可能であり、それによって深刻な合併症の発症や進行のリスクを軽減することができます。糖尿病の初期段階では、食後の血糖値のみに異常が現れる食後高血糖の状態がみられることもあります。この時期には、食事療法や運動療法により血糖値を適切にコントロールすることで、糖尿病の進行や合併症の発症を予防することができます。
また、糖尿病が健康診断などで発見された場合、ほとんどが軽度の糖尿病であり、薬物治療を始める前に生活習慣を見直すことで改善できる場合もあります。
糖尿病の早期発見と適切な治療の継続により、良好な状態を維持することができます。
食事療法
必要な栄養を適量摂取することが重要です。絶対に避ける必要がある食品はありませんが、エネルギー摂取量が過剰にならないように注意する必要があります。特に外食、間食、甘い飲料、アルコールなどには注意が必要です。
医師と相談しながら、患者様に合ったバランスの良い食事を心がけることが重要です。
以下のポイントを考慮した食事から始めましょう。
- 食事は腹八分目にすること。
- 1日に摂る食品の種類をできるだけ多くすること。
- 動物性脂肪(飽和脂肪酸)の摂取を控えること。
- 食物繊維の多い野菜(特にベジファーストなど)、海藻、きのこなどを積極的に摂ること。
- 朝食、昼食、夕食の3食を規則正しく摂ること。
- よく噛んでゆっくりと食事すること。
- 間食は糖質を多く含まないものを少量摂るようにすること。
運動療法
運動による効果として、体内のブドウ糖や脂肪酸の利用が促進され、血行や代謝が改善し、筋力が増強することで、血糖値の低下やインスリンの働きの改善に繋がります。ただし、既往歴や他の要因により運動が禁止または制限される場合もありますので、適切な運動の種類、時間、回数などについては医師と相談してから行うようにしてください。
以下は、運動療法が禁止または制限が必要なケースの一例です。
- 空腹時血糖値が250mg/dL以上であり、尿中のケトン体が中等度以上の陽性を示すなど、
糖尿病の血糖管理が極端に悪い方。 - 増殖前網膜症や増殖網膜症がある方。
- 腎機能障害がある方。
- 虚血性心疾患や心肺機能障害がある方。
- 骨や関節疾患がある方。
- 急性感染症を発症している方。
- 糖尿病神経障害がある方。
- 高度の糖尿病性自律神経障害がある方。
薬物療法
血糖管理が不十分な場合には、食事療法や運動療法に加えて糖尿病治療薬が使用されます。糖尿病治療薬は、インスリン分泌促進系、インスリン分泌非促進系、およびインスリン製剤の3種類に分類され、経口薬と注射薬の形態で使用されます。
具体的な薬剤の種類や量は、症状や状態、合併症の有無、薬の作用、ライフスタイルなどを考慮して、患者様と医師が相談し、決定します。
また、糖尿病治療薬の使用に際しては、低血糖を起こさないためにも注意が必要です。
薬物療法はいつまで続ける?
1型糖尿病では、膵臓からのインスリン分泌が極端に減少または枯渇してしまうため、インスリン補充が必要不可欠です。インスリンは生きるために欠かせない存在であり、インスリン補充を含めた薬物療法を継続する必要があります。
糖尿病でも長期間に渡って血糖管理が悪化すると、インスリン分泌が極端に減少または枯渇することがあります。そのため、薬物療法を中止してしまうと危険です。
2型糖尿病においても、膵臓から十分なインスリンが分泌され、その分泌が持続する状態になって初めて減薬や休薬が考慮されます。薬の服用や治療に関しては、医師と十分な相談をしながら進めることが重要です。