風邪症候群とは
風邪症候群は、発熱に加え痰、咳、くしゃみ、咽頭痛、鼻づまり、鼻水などの複数の上気道症状を呈する疾患群です。主にウイルスや細菌が粘膜から侵入して喉や鼻に急性炎症を起こす事によって起こります。それによって、ほとんどの感染症は最初の症状が風邪症状で、その後に特徴的な症状などが出現することが多いのです。コロナウイルス感染やインフルエンザウイルス感染のようなウイルス感染の他に、溶連菌感染やマイコプラズマ感染のような細菌感染も含まれます。ウイルス感染であれば、自分の体の免疫で多くは改善するのですが、この期間の様々な理由で重症化することがあります。また、風邪症状は様々な細菌感染やそれ以外の疾患での初期症状の可能性もあります。
いわゆる風邪だと思っていても長引くケースでは重症になるようなウイルス感染症だったり、別の深刻な疾患が隠れている可能性もあります。
症状別の可能性が高い疾患
喉の痛みはものを飲み込む時に痛いのですが、通過に抵抗がなくて痛いのか引っかかる感じがするのかで疑う原因は違います。喉に炎症があるだけなのか、喉に腫れがあるのかの違いです。炎症だけの場合はウイルス感染や肺の疾患、胃からの逆流症状が疑わしく、腫れがある場合には細菌感染や喉の腫れが特徴のウイルス疾患、あるいは喉の悪性疾患や外傷の可能性を考えます。腫れるものは片側だけのこともあるので。片側が痛いものは腫脹があると考えていいです。
鼻水は異物反応なので、ウイルスや細菌以外に花粉などの小さい粉状のものにより起こります。埃っぽいところで鼻水が出るようなものです。身体は洗い流そうと思って鼻水を出すわけです。これは粘調性の少ない鼻水が出ます。鼻の中を鼻腔と言いますが、周囲に副鼻腔という空間があり、ここに細菌感染がある場合があります。この場合にも鼻水が出ますが、菌が鼻腔に出ていなければ粘調性の少ない鼻水ですが、菌が鼻腔に出てくると粘調性のある鼻水が出てきます。白色とか黄色とか緑色とかで原因菌を推定します。くしゃみも鼻水と同じような理由で出てきます。風邪症状のくしゃみ、鼻水と花粉症のくしゃみ鼻水は同じものです。
咳は気管内のものを外に出すための反応です。気管内に水があるものや菌があるもの、血液や異物があるものなどがあります。少量から量が増えるに従って、コンコンといった咳(乾性咳嗽)からゲホゲホといった咳(湿性咳嗽)に変わります。乾性のものは痰が出ませんが、湿性のものは痰が出ます。出すものに応じて、痰の種類が変わります。
これらの症状の他に倦怠感、頭痛、関節痛、筋痛などの症状を伴う多彩な症状のものはウイルス感染には多いですが、細菌感染や他の疾患では単一の症状がおおいです。
喉の症状が出現するもの
扁桃周囲膿瘍や急性喉頭蓋炎
咽頭炎に関連した重い病気には、扁桃周囲膿瘍や急性喉頭蓋炎があります。
扁桃周囲膿瘍
扁桃周囲膿瘍は、扁桃炎が進行して発症する疾患です。この病気では口蓋扁桃という組織が口の奥の両学にある口蓋扁桃で細菌感染を起こし、炎症と膿を生じます。主に20~30歳代の男性に多くみられます。症状としては、38℃以上の高熱や全身のだるさが現れ、片側の喉に強い痛みが生じます。患者様は口を十分に開けることができず、「食事が摂れない」と訴えることがあります。この「開口障害」は、病態が重篤化する可能性がある危険な兆候ですので、注意が必要です。また、特徴的な症状として「Hot Potato Voice(ジャガイモを口に含んだような声)」が現れることがあります。治療の基本は抗菌薬の投与ですが、場合によっては切開排膿などの外科的処置が検討されることもあります。主に細菌感染でよく見かけるのは溶連菌感染です。抗生剤治療が必要になります。
急性喉頭蓋炎
急性喉頭蓋炎は、声帯の上部にある喉頭蓋に炎症が生じる疾患です。喉頭蓋は、食べ物が気管に入らないようにする役割を果たしています。そのため、喉頭蓋が炎症を起こし腫れると、気道が狭まり呼吸困難を生じます。患者様は唾液を飲み込めず、口を開けたままよだれを垂らすことがあります。また、呼吸をしやすくするために「sniffing position(花の匂いをかぐように鼻を突き出し首を延ばした体位)」をとることもあります。喉頭蓋炎では窒息の危険があるため、注意が必要です。
伝染性単核球症
伝染性単核球症は比較的よくみられる病気です。発熱、倦怠感、咽頭痛、頚部のリンパ節の腫れ、肝臓と脾臓の腫脹が主な特徴です。喉には白くベタッとした「白苔」と呼ばれるものが付着することもあります。この病気は、エプスタイン・バールウイルス(EBウイルス)やサイトメガロウイルスの感染によって引き起こされます。
亜急性甲状腺炎
見落とされがちな喉の痛みの原因として、亜急性甲状腺炎が挙げられます。亜急性甲状腺炎は、首の前部に位置する甲状腺という臓器に炎症が生じる病気です。発熱や甲状腺の腫れと痛みが主な特徴であり、痛みは時間とともに位置が移動することもあります。また、甲状腺ホルモンを産生する細胞が破壊されるため、血液中に甲状腺ホルモンが過剰に放出され、動悸や多汗、倦怠感などの症状が現れます。通常、2〜3か月で症状が自然に消失し、回復します。甲状腺ホルモンも徐々に正常に戻りますが、一時的に甲状腺内のホルモンが不足し機能低下を起こすことがあります。亜急性甲状腺炎は、特に30〜40歳代の女性に多くみられる病気です。
その他の病気
喉の症状に関する重大な疾患として大動脈解離、心筋梗塞、くも膜下出血などが挙げられます。これらの病気は命に関わる危険性があるばかりでなく、非典型的な症状を起こすこともありますので、注意が必要です。
大動脈解離
大動脈の壁が剥離し、血液が異なる層に流れ込む状態です。症状としては、突然の胸部や背中の激痛、息切れ、発汗、めまい、意識障害などが現れます。重大な状態であり、早期の受診が不可欠です。
心筋梗塞
心臓の筋肉組織が血流の遮断によって損傷を受ける状態です。胸部の強い圧迫感や痛み、左腕や顎の痛み、呼吸困難、吐き気、嘔吐などが一般的な症状です。重大な状態であり、早期の受診が不可欠です。
くも膜下出血
くも膜下腔と呼ばれる頭部の一部で血管が破裂し、脳の周囲に血液が溜まる状態です。突然の激しい頭痛、頭部のこわばり、意識障害、嘔吐などが特徴的な症状です。早期の受診が不可欠です。
胃食道逆流症や不安神経症
これらも喉の違和感が生じることがあります。
咳症状が主な場合
咳が目立つ場合、気管支炎や肺炎が考えられます。肺炎の場合、胸部レントゲン検査で確認することが一般的ですが、レントゲン画像では肺全体の約70%程度しか見えず、初期の肺炎や小さな肺炎を発見しづらい場合もあります。高齢者でCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの病歴がある場合、細菌感染が原因である可能性があるため、抗菌薬の使用を検討することがあります。
ガタガタ震えて止まらない悪寒を伴う38℃以上の発熱や、パジャマを交換するほどの寝汗がある場合は、肺炎を疑って対処するべきです。
ただし、インフルエンザは肺炎がなくても悪寒や高熱などの症状を引き起こすため、注意が必要です。また、咳や微熱が1~2週間続く場合には、マイコプラズマ肺炎や百日咳を考慮する必要があります。結核も日本国内ではまだまだ見られるため、持続的な咳の場合には胸部レントゲン検査で確認することが望ましいです。
慢性的な咳の原因としては、後鼻漏、咳喘息、胃食道逆流症が一般的に挙げられます。長期間に渡って咳だけが続く場合には、これらの疾患を疑う必要があります。
肺が直接の原因ではないのに咳が出る病気としては心不全があります。心不全は、心臓のポンプとしての機能が低下し、体の臓器に必要な血液を適切に供給できなくなる状態を指します。心不全の主な症状としては、動悸や息切れ、むくみなどです。また、夜に横になると咳が出るなど、風邪に似た症状も現れることがあります。
風邪症候群の検査
かぜ症候群はあくまで症状があるということなので、色々な疾患の初期症状の可能性があります。多くはウイルス感染が疑われるため、迅速診断キットを使用してインフルエンザ、アデノウイルス、RSウイルスなどの診断ができますが、検査で陰性の場合には、色々な疾患の可能性を残すことになります。また、ウイルス感染単独ではなく細菌感染を伴うものなどもあります。風邪症状だから軽いものだなどということは決してありません。症状の経過観察の後、胸部レントゲン検査や血液検査を行うこともあります。
風邪症状だから大丈夫。ではないことを認識してもらいたいです。
風邪症候群の合併症
風邪症候群が発症している時は、全身の免疫状態が低下しており、様々な合併症が発生するリスクがあります。具体的には、細菌やウイルスが肺に侵入して肺炎を引き起こす可能性があります。
風邪症候群の治療法
治療はウイルス感染だと抗体ができるまでの4,5日の症状に対する対症療法になります。身体は治すための努力をしていますので、熱や咳が出るのですが、これは必要な症状なので、妨げない程度に症状をとってあげられるように、内服をします。大事なのは脱水にしないことで、倦怠感や頭痛、筋痛などは脱水の症状のことも少なくありません。しっかり水分摂取をしましょう。特に寝ている間は水分がとれないので、朝起きたら脱水症状が強く出ます。寝ている間に熱が上がるのを避けるために、解熱剤などを使います。寝汗などがあれば、夜間に熱が出ている可能性が高いです。
抗体ができてしまえば、熱は治まりますが、咳や喉痛、倦怠感などが残ることがあります。ここからは、症状に併せて別の治療が必要になります。風邪症状から5日を過ぎて残っている症状は相談してください。
通常、ウイルス感染では抗生物質は使用しませんが、細菌感染の合併が疑われる場合には抗生物質を内服して頂くこともあります。
風邪症候群の予後
発熱やのどの痛みなどの症状は通常、1週間以内に改善することがほとんどですが、咳やのどの違和感が長引くこともあります。実際、かぜをひいた方の中には、2週間後にも、なお咳が続く方が約4人に1人いるというデータもあります。そのため、咳が続く場合には咳を出し安くするようなお薬を継続的に使用することもあります。
風邪症候群の注意点
ウイルスの活動を抑えるために必要なのは水と熱です、少し温度や湿度を上げてもらうのが良いです。湿度を上げるとウイルスは水の重みで床に落ちるので、周りの人に感染させる危険も減ります。(小さい子供などは床に近いところにいますので、こまめに掃除することが、感染予防になります。体内の水ということで、脱水を防ぐためにこまめに水分を摂取することも重要です。
市販薬を服する際の注意点
かぜ症候群と自己判断した場合、市販薬を使用することも一般的です。アセトアミノフェンなどの薬は良いのですが、総合感冒薬などは身体にとって必要な症状をなくしてしまうため、増悪させる可能性があります。受診した場合には、医師が診察して症状に適した成分が含まれた薬を処方していますので、受診して薬を決めてもらう方が良いと思います。
細菌感染が疑われる場合など、抗生物質が必要となる場合では医療機関でしか処方できません。